青空とオレンジ(天王町周辺にて)

何もない休日。私は近所に飛び出した。
斜め掛けバッグに読みかけの本とスマホを入れて、足指は少しだけヌード。

家を出て、最寄り駅を背中に歩く。
さらに歩いて振り返ると、私の通勤路と最寄り駅とバス停が、白昼堂々、ひとつのフレームに収まってる。あまりにも日常過ぎる風景。
でもこんな風景だったっけ。「通勤」の縛りを抜けると、日常の風景も、なにか映像作品の一コマにすら思えてくる。この町も、急に愛おしく思えてきた。

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陸橋を渡る時、トップバリューの4リットル焼酎の空きペットが、路上の植栽をずらずらと囲んでいた。どれもこれも酒だ。
ちなみに、飲み干された空きペットの本数を数えてみると、なんと122本もあった。リットル換算で488リットル。
一般家庭のバスタブ以上。もしくは葬祭場の木棺ひとつを、ひたひたに出来る酒量だ。「帰ってきたヨッパライ」もびっくり。寝返っても酒だし、逃げ場なく、酒。

しかし家主もようやっとるな。
「牛若丸と弁慶」の弁慶は倒した相手の太刀を集めていて、その数999本!なんて話もあったけれど、これは家主の武勇伝を歩道で見せびらかしているのか。そして日々、本数も増えていくのかしら。
でも飲むことそのものが目的になってる飲酒は、健康によくないな。健康であってほしいよ。

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陸橋から見渡す鉄道と河川。
この辺りを歩いていると、平沼橋のガスタンク(正式名称はガスホルダー)が目に入る。映えというか、可愛い。日本人ってこういうの、すきだよね?
ゆっくりまばたきして、あのガスタンク中心に景色を一度見直してみる。
すると視界の中心、ピンポン玉みたいな丸っこいヤツがいて、あとの部分は良く出来た、ただのジオラマなんじゃないかって、球体を中心とした、不思議の世界に「ハテ?」と思う。

ああでも、私には何が真実か、わからないな。
特に夏場は、うだる暑さにヤラれがちで、陸橋の歩道ですれ違う人も少なくて、ツッコミ役も不在。ワケのわからなさを、ひっちゃかめっちゃかさせてる。


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洪福寺の松原商店街にやってきた。夏だから「氷」の文字。
八百屋の日よけの上には、逆さまになった顔が並ぶ。口開けたまま何を待ってるんだろうか。ぱくぱくエサでも欲しいのか。

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八百屋の店頭に並ぶ野菜たちは、産地を眺めるのもたのしい。
野菜たちは近かったり、遠かったり、色んなところから来てるんだなって、地名なんて文字かもしれないけど、それだけじゃない。
行った事のある土地には思い出もあるし、行った事のない土地には憧れるし、そこの野菜だって、口に運べば、あの町の味がするんだろうか。

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じゃん!じゃん!じゃん!じゃん!じゃん!じゃん!じゃん!じゃん!(立体的に押しかけてくる)


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炎天下をボチボチ歩く。
ビーチじゃなくてもパラソルだし、ジリジリ降り注ぐ日差しと、サンダル越しに伝わる足元の熱気は、すこし海みたい。

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あ、いや、やっぱり海かな。この辺を歩くと、いつもそう思う。


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通りすがりに、ちょっといい感じの焼き鳥屋さんを見つけた。
見慣れない店名に「はて・・・」と思い、立ち止まっていると、店の前でタバコを吸ってた常連さんから手招きを受けた。よし!行くか。

ドリンクのメニューに、あのフラミンゴオレンジの焼酎があったから、さっそく頼んだ。
熊本の焼酎バーぶりに飲んだ、フラミンゴオレンジはやっぱり美味しい。
フラミンゴオレンジの焼酎は、オレンジ色のサツマイモから作られた芋焼酎で、ソーダ割にすると、芋なのにライチのような、柑橘のような味がする。すき、すごくすき。昼飲みに、この爽やかさ、うれしい。


しかしこう最近は、心の隙間を埋めるための酒というか、酒と酒場の雰囲気を摂取することで、私の中の何かを取り戻そうとしているのか、酒場に行く頻度が増えてしまっている。
以前から、心のどこかに虚しさは抱えていたろうし、それがあるからこそ、趣味でも創作でも交友関係ででも、無意識の意識で埋めよう!埋めよう!って意欲的に動けていた所もあったんだろうけど、このコロナ渦で、すこし色々と壊れてしまった。だけどクヨクヨしてても仕方ない。
私は酒と太陽と人間を浴びて、立ち上がるんだ。願う力にも望みは託してる。


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酒場から出ると、日がすこし落ちていて、さっきのような眩しさは無かった。


すこし歩いて、天王町保土ヶ谷の中間くらいにある、夏季限定営業のかき氷屋で、すこし気分よくなりたかったんだけど、そのかき氷屋さん、今年はまだ営業をはじめてなかった。
今季は営業しない方針なのか、店側が「まだ夏ではない」と判断しているのか、そこはよくわからない。

ただ数年前、時間は6時前だったかな。店内のテレビでは夏の甲子園がやってたんだけど、アレすごかったな。
準々決勝の9回裏、もう後が無い状態の、秋田県立・金足農業が、2-1から2点差をひっくり返し、逆転勝ちした試合だ。
注文を待ちつつ、皆はだんだん白熱する試合に釘付け。ガラスの容器から小さなスプーンでチビチビすくうミカン氷と、試合終了のサイレン、食べ終えて店の外に出た時に浴びた夕方の橙色。それから盆明けだ。夏の名残惜しさとせめぎ合う、あの暑さ。

社会人になって、あんなに「夏の終わり」を意識したこと、あったっけな。
もう一度、ああいう思いをしたいんだよな。今年はまあ、甲子園、無いけどさ。


これは帰り道。昼間はあんなに賑わっていた商店街も、日曜日は6時半を過ぎるとこんなに静かだった。
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でもこう、営業時間外は営業時間外で、シャッターを眺めるのも面白い。
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切り身や魚卵が海を泳ぐ。そんなこと、ありえないのにね。
しかもカニは、元からハサミが備わっているというのに、そこから包丁まで構えて、なんというバイオレンス。

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「海底で生きる切り身」。結構な作品に遭遇してしまった気がする。


そしてコレは、事実上のヒマワリ。
ヒマワリは陽を追いかけるけれど、コイツは光を反射する。
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結構な共存具合だ。
夜になれば、橙色の光を反射していくんだな。



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……と、青空は先に眠っている。私も今日はおうちに帰ろう。