【宿】湯河原元湯 光陽館

皆様「どこか遠くへ行きたい」と、大なり小なり「失踪願望」をお持ちではないでしょうか……。
ということで、週末失踪記。極私的に惹かれたお宿や旅先のことを紹介したいと思います。

湯河原元湯 光陽館

コトミ的週末失踪記の記念すべき第一回目は「湯河原元湯 光陽館」です。
JR東京駅・横浜駅から約1時間、JR湯河原駅に降り立ちまして、そこから3キロくらい(バスだと15分230円)のところにある素泊まりの温泉旅館です。

宿に向かう経路

湯河原駅からゆるやかに坂道をのぼり、明店街(めいてんがい)・理想郷・道中と、昭和末期のロードムービーに出てきそうな名前の停留所を通過。
特に「理想郷」だなんて、ここまで人間の願望をストレートに吐露する停留所名もそうそうなく、窓の外の眺めも味わい深い。
と、そんなこんな浸っているうち、千歳川と並走する県道で浮世から遠ざかり、今宵の最寄停留所は「温泉場中央」という名前で、本当にそのまんま。

そして川の向こう側に見えるのが「湯河原元湯 光陽館」さん。

蛇行する川に沿い、緩くカーブを描きながら立つ佇まいが艶めかしい。面が一直線ではないところに自然に寄り添う姿勢を感じる。
建てた当初はもっとギラギラしていたのかもしれないけれど、くたびれ方にも「往年の湯河原」を感じさせて、なんだかとてもいい予感がする。

室内


まだギリギリ明るい時間だったので、陰影を意識して一枚。
この宿は全ての部屋が川に面していて、日没近い時間は、西向きの窓から広縁越しの弱りゆく外光が、まぶたに余韻を残しながら部屋に差し込んでいく。



翌朝、明るい中で撮った写真。10畳の和室に船底天井が醸し出す剛健さ。


それから細かい部分。
館内履きの下駄、室内のトイレが和式なところ、床柱付きの和室に、座椅子。

私が思う貧乏旅にはオーバースペックに感じてしまう部分もあるけれど、和式トイレとのプラマイで、何故かホッとしてしまうバランスも個人的に好きです。



露天風呂


女性は16時から18時半、男性19時から21時と入浴時間の限られている露天風呂。
時間の制約はありますが、特に露天風呂のお湯使いがシャキッとした浴後感でいいお湯でした。
アルカリ性、自家所有尾畑源泉を使用。

湯河原は基本的には湯温高めな温泉地(光陽館の源泉も84.1度)なのですが、すこし肌寒さのある日に「そうそう!この温度」と絶妙な湯温で、あつ湯好きに湯河原はもって来いです。

もちろん深夜帯でも入れる内湯もよいのですが、宿泊の際にはぜひ露天風呂に入っていただきたい。
この写真とは別の日、16時ちょうどくらいに入湯したら、露天風呂のお湯が6割ほどしか入っていない日もあったので「お湯の入れ替えも頻繁に行っているのだろうな」と思ったのですが、そのくらい惜しげもない湯づかいをする温泉。むしろ好きになりました。

館内を歩く


夜間のフロント周りを撮った一枚。(なんとなく好きな構図)
この鏡に映りこんでいる内湯に向かう階段だったり、本来の階層とは別に中2階のようなところがあったのですが、これは増築した部分との差なのだろうか。でも増築は旅館の華だと思っているので、むしろ見どころだと思っています。宿の接がれた部分を愛でています。



ワインレッドのじゅうたんが敷かれた廊下。
この宿の階段もめっけもんでした。金属と年季の入った木との組み合わせが良く、見下ろしても、曲がりをみても「ああいいな」と惚れ惚れする階段。
そして時代が止まっているかのような建物の中で、私はいま「どこの時代にいるのだろうか」と錯覚を憶えられることの素晴らしさ。

私の中で旅というものは、距離だけでなく、意識まで遠くに行きたい。という感情があるのですが、このお宿が持つ、味のある古めかしさは、意識としても遠くへ行けますね。

湯河原を歩く

横道にそれる

これらは夕飯を取るためのお店を探し歩いていた時に撮った写真たちです。

光陽館から出てすぐのところにあった湯畑。
奥では源泉を汲み上げるコンプレッサーが、地下に空気を送り込んでいる。涼しい夜だと湯けむりまで目視できる。
ここ湯河原から60kmほど南下したところにある、東伊豆町熱川温泉も「面積当たりの温泉やぐらの本数・日本一」ですが、灯りに照らされた温泉やぐらと、空に上がる熱。
町には観光資源としても活用していただきたい、説明書きがあれば尚いいのですが、単純に鉄と蒸気はカッコいい。


湯畑の坂をすこし上がったところにある廃美容室。
朽ちかけてはいるけれど、木製の扉や飾りたちに、いつの時代かわからないながら、朝ドラにでも出てきそうな、そんな時代の美容室跡。朽ち方より建物として、興味深く観察していた。


あくる日、美容室の坂を上がりながらの散歩。
川沿いから急坂の横道に吸い寄せられ、その途中にも他の旅館や廃旅館があり、これでもかと坂は続く。道が枝分かれするように、配管も分岐して、薄ら雨の中で坂を上る。
湯畑から空気圧で温泉水を押し出すコンプレッサーに負けないよう、筋肉を動かしながらずんずんと歩く。しかしそれでも「坂の中腹」が続いて、てっぺんがみえない。坂を上がる自動車も平地とは異なる音で走ってく。
と、そんなこんなしている間にも、雨の冷たさと擦り減る体力を感じ「いい加減」で引き返す。
けどそんな「いい加減」でも楽しめて、湯河原の横道は思いのほか楽しかった。

町中華に甘える(光玉)


それから湯河原に行ったら、バス通り沿いの町中華・光玉さんにも寄ってほしいです。
8席ほどの店内で、カウンター越しに調理を行うやさしいお母さんとお父さんがいる、昔ながらの町中華・光玉。


写真は光玉で食べた、神奈川のご当地麺、サンマーメン(あんかけモヤシラーメン)です。

見た感じでは「よくあるオーソドックスな味なのかな」と思わせつつ、いや違う。スープがおいしい。どこか品の良さ(野菜の旨味?)もあるけれど、動物性(鶏ガラ?)のコクも感じて、するすると食が進む。
そして町と料理の奥深さ。スープをひとさじ飲むごとに、湯河原の温泉で放出した水分と塩分がじんわり補われるのが体感としてわかるのも、またいい。

家庭的な雰囲気のある店内と合わせて、現代日本での都市生活における疲れが剥がれ落ちていくようなおいしさ。素泊まり温泉との相乗効果もあって、滋味深いんです。





湯河原の観光地

極私的な感覚?に偏らなくても楽しめそうな湯河原の見どころをいくつか挙げていきます。

万葉公園


湯河原の温泉街近くにある、遊歩道の整備された公園。
テルチェックアウト後の「もうひとブラブラ」にもいい感じ。

かつては軍人さんの療養地としても使われていたらしいけれど、敷地内には小さいながらも水量のある滝や川のせせらぎ、竹林に、季節で色付く草木が植えられており、全体的にオトナ向けな雰囲気。


それから湯河原の温泉はタヌキが見つけたものらしく、敷地内にはタヌキを祀った神社もある。東日本は狸よりも狐信仰の地だけに珍しい。


公園内は数年前に改装され、敷地内には「湯河原惣湯」という施設もある。施設にはお高めの日帰り温泉部門も!ひたすらオシャレ。
yugawarasoyu.jp


ちぼり湯河原スイーツファクトリー

駅から5分ほどの所にある、ちぼりのカフェとショップと工場を兼ねたお店。
ここの目玉はアウトレット品の直売と、クッキーの60分間食べ放題!ワンドリンク付きで550円(税別)!覚悟のあるヤツだけ、ひたすらクッキーに溺れられろ。
www.tivoli-factory.com


十二庵

湯河原に別荘を持つという、さくまあきら氏も絶賛のとうふ・生ゆば専門店。温泉地と駅に向かう間にある。駅からは歩いて20分ほど。
ご当地の美味しいものもたくさん登場する「桃太郎電鉄」の生みの親が地元民目線で美味しがる豆乳パフェ、確かに美味しかったです。




源泉上野屋と富士屋旅館

湯河原の老舗温泉宿たち。建物好きの目線もありますが、源泉上野屋と富士屋旅館もいつか機会あれば泊まってみたいです。

源泉上野屋は登録有形文化財かつ迷路旅館としての評判も多数。
迷路のような階段や意匠たちを取り上げた宿泊記も読んでいるだけでグッとくる。
gurutabi.gnavi.co.jp


富士屋旅館は湯河原温泉街の景観の中でも存在感がある。
それから復旧プロジェクトの記事を読むと「コレは一度実物見てみたいな」と思わず唸ってしまう。
www.homes.co.jp


おわりに

湯河原と私

「週末失踪記」と称しまして、極私的な旅と宿のはなしを書いてみました。
湯河原温泉 光陽館、初回が4月のまだ寒い時期、2回目が5月だったのですが、今度は万葉公園の紅葉が映える季節にまた行きたい!晩秋は湯河原に行こう!
(あと「湯河原惣湯」の施設内「惣湯テラス」にはサウナがあるそうで、サウナ趣味的にも気になる施設です)

それから、JR東海道線に乗ると、

  • 移住者多く、昔ながらな漁師町の町並みを活かす真鶴
  • 相模の小京都とも呼ばれる湯河原
  • 昭和のリゾート感が眩しい熱海

と、三駅が並んでいるのですが、真鶴~湯河原~熱海の三駅はそれぞれに見どころがあり、真鶴散策に湯河原の温泉を組み合わせてもオツだし、湯河原に泊まったあと、熱海の海沿いの喫茶店に寄ってから新幹線で帰ってもいいよね。と周遊しながら、フレキシブルに楽しめるのも魅力に思います。
(実際私も湯河原と真鶴、両方楽しみたくて、両方に目的地を持ちがちです)


でも湯河原の魅力、小京都と呼ばれつつ、不思議とどこか「味わい方の余白」を感じるところにも、面白みを感じています。


ショーケースの余白の中で、猫がこっち見てるくらいだし。
たまにいつか、余白を摂取したくなったら、また湯河原行くんだろうな。