女子寮での暮らし(ルームメイトAの思い出)

上京して結構な年月が経つけれど、20代半ばくらいまでは、都内の北の方から埼玉の南の方にかけて、転々と暮らしていた。
それには色んな事情があったけど、その中でも、昭和40年代に建てられた建物の中の一室、12畳部屋に3人暮らしという時は最高に酷かった。

いわゆる「住み込み」での仕事だったけれど、まず廊下は共用空間です。大きな声を上げない。お局様の目が光る。
そして12畳3人部屋はやっぱり狭い。
年頃の女子は荷物が多いし、3人が好きなテイストもそれぞれケンカしてるし、居住空間の間仕切りは冷蔵庫とカラーボックスで、プライバシーがロクにないうえに「地震でも来たら私はこの冷蔵庫の下敷きになって死ぬな」と、はっきり言って笑うしかない。

しかもルームメイトたちもなかなかのマイペースで、週に4日は彼氏の家に転がり込んでいたルームメイトBはまだいい。
深夜にもうひとりのルームメイトとパラパラを踊りだした時は「ナニクソギャルめ」と、たぬき寝入りしつつ、布団越しに殺気が伝わらぬよう、息をグッと押し殺したことはあるけれど(でもワタシ悪くないよ)、問題は夜な夜な同室にいた、ルームメイトAだ。

冷蔵庫の向こう側の住民・ルームメイトAは、私が寝ようとしている時間でも「えー、焼きそば食べようよー」って、とぼけた声を出しながらホットプレートで焼きそばを焼き始める、頼むから私の布団にソースの匂いを流さないでくれ。
しかも2玉同時に調理するって何。結局私も焼きそば食べちゃったじゃない。酷いよ。

あとそのルームメイトAは無計画というか、天然というか、愛嬌だけでこの職場に転がり込んできたのかな。と思わせるくらい、とにかく物を知らなくて、東京都内の地理や、ゴチャっとした横文字に漢字、わかんない事はとにかく私にきいてくる。

で、その中でも強烈に忘れられない質問があって、「ねえコトミ、このメールどういう意味?」とガラケーの画面で、Aの彼氏からA宛のメールを見せてもらったけど「淫乱だったよ♡」という一文をわかりやすく説明しなさい。って難しいな。「淫乱」これは絶対に学校では習わない漢字だ。
言葉を濁しながら「Aちゃんが愛に溢れていて、色っぽかった」って意味だよ。と説明したんだけど、果たしてそれでよかったのだろうか。

それからそうだ。Aはよく笑う子で、私が観ても正直「あんまおもしろくないなー」って思ってた、エンタの神様なんかでもたくさん笑ってて、ああ彼女はしあわせな子だな。私なんかより、ずっとずっとしあわせそうな子だった。
私は正直な所、ギャルっぽい子が苦手だったけれど、Aはナニクソギャルとも仲良くしてたし、裏で愚痴はよくこぼすけれど、表向きは誰が相手でも分け隔てなく接していた。

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もちろん、こんな私に対しても。






ああ、もっと早く気が付けばよかったな。
住み込み時代の私はまず「東京で這い上がる事」しか考えてなかった。最高に酷かった。
Aは今頃なにしてるんだろう。8年前かな。震災の次の年、偶然池袋の駅ナカで再会したときに「今度結婚して、彼の田舎に引っ越すんだ」と、言ってたけど、しあわせにしてるといいな。