献血のエロス

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(横浜西口の某献血ルームより)

献血ってエロいよなって思う。
輸血/献血という行為を通して、私の肉体の中を流れる液体が、見知らぬ誰かの肉体の中に入っていく。
そして、私の知らぬ所で、私の肉体を流れていた液体が、誰か血管/毛細血管と流れていき、全身に行き渡り、私の血液が見知らぬ誰かの肉体を動かしていく。

日曜日は久しぶりの献血に行った。
横浜駅西口の献血ルームを事前予約して、時間ぴったりに入って、整理番号を左腕に巻かれる。
「今日の私は76番。ラッキーセブンには、一つ足らないオンナ」
そして左の腕で採血しては、比重を測定され、合格をもらっては、血液型A型の黄色い紙を腕に巻かれ、いよいよだな。って、フードコートで渡されるような、デジタルの呼びブザーを渡され、待合室の椅子で待つ。

待合室ではたくさん並ぶマンガの中から、場面は知っていても、今まで読んだことのなかった、大友克洋AKIRA」を読んでみたけど、なかなかアキラは出てこない。

しばらく経つと、ポケットの中の呼びブザーが音を立てて震えた。
「4バンニ オコシクダサイ」

ベッドに横たわり、右の腕で献血して、400ミリリットルの血を抜くのに10分も掛かったろうか。
ベッド脇のテレビでは楽天ロッテ戦のデーゲームが放送されてて、ブラッシュが同点タイムリーを打ったな!って思ってたら、あっという間に献血は終わってた。

でもそのやっぱり、献血はエロい。
管を通しながら輸血パックに溜まっていく、私の血液を横目で見て、血を抜かれていく私は、だんだんにボーッとしていくんだけど、恍惚混じりでもある。
私の肉体から採取した液体は丁重に扱われ、私はこの丁重に扱われる液体の製造源なんだって、無抵抗で血液を採取されゆく私にも酔ってる。

それから、献血そのものは断じて気持ちのいいものではないけど、血を失う中で、同時に欲や闘争心のようなものも薄れていき、無欲に近づく心地よさもある。
そして頭のそのものは、いつも以上によく回る様子なんだけど、それを留める側の頭があまり働かなくて、言葉にも上手く変換できない。

というか、今の私もこうして献血のことを思いながら、文字起こしをしていく行為を通して、献血後の頭が溶けかけてる感じを思い出して、ロクなこと書き連ねてないな。眠さのせいかな。

帰り道、すこし立ちくらみ、エレベーターホールの壁にもたれ掛かりながら、ふと思い出した。
「血は立ったまま眠っている」ってなんだったっけな。
あ、そうだ。十数年前に読んだ寺山修司の本に出てきた文章だ。
だからって、私も、立ったまま、半分眠ってるけどね。

まるで事後のように。

 

 

 

それから数日、日本赤十字社からメールが届いていた。献血の結果だ。
早速、会員向けwebページで開いてみる。

が、結果むなしく、血小板が標準値よりほんの少し多くて(基準値外)、私の血液は他人に輸血できない血液だとのこと。

「なんってこったい!!!」
せっかく私も誰かの肉体に入り込めるチャンスだったのに!

行動や態度で他人を動かせないのなら、せめて血液として、他人の肉体に入り込み、誰かを動かす(物理)チャンスではあったのに、惜しい、惜しかった。
まあいい。次の献血のチャンスは10月末。
それまで健康体で過ごしておこう。